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仙台高等裁判所 昭和46年(ラ)45号 決定

抗告人 東北建設機動株式会社

右代表者代表取締役 佐藤善三

右代理人弁護士 宇野聡男

相手方 ノースニッポンエンタープライズ株式会社

右代表者代表取締役 女川潤

右代理人弁護士 梅津昭一

主文

一、原決定を次のとおり変更する。

(一)  相手方に担保を供せしめないで、仙台地方裁判所が昭和四六年五月一九日にした仮処分決定に基く執行は、別紙図面(イ)(イ)(ハ)(ハ)(イ)の各点を直線で結んだ範囲の土地に関する部分に限りこれを取り消す。

(二)  本件申立中その余の部分を棄却する。

二、本件申立費用は、原審および当審とも相手方の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨および抗告理由は、別紙記載のとおりである。

二、本件記録によると、昭和四六年五月一九日仙台地方裁判所は抗告人の申請に基き相手方を被申請人として、相手方は仙台市荒巻字川平一三番一三四九山林四二一平方米のうち別紙図面(イ)(ロ)(ニ)(ハ)(イ)の各点を直線で結んだ範囲(以下本件係争地という。)に立ち入り、通行その他抗告人の占有を妨害する一切の行為をしてはならない旨の仮処分決定を発したこと、抗告人は右決定に基き執行を終えたこと、相手方は右決定に対し異議の申立をなすとともに、右仮処分異議の判決があるまで右仮処分決定に基く執行の取消を申し立てたこと、そこで原審は、民訴法七五六条、七四八条に基き同法五一二条、五〇〇条を準用して右申立を認容したことが認められる。

三、ところで、仮処分は権利の終局的実現を目的とするものではなく、単に権利の保全のために必要な仮の措置を講ずるに過ぎないものであるから、たとえこれに対し異議の申立があった場合でも、原則として同法五一二条、五〇〇条を準用してその執行を一時停止しもしくはこれを取り消す必要はないはずのものであり、たやすくこれを許容することは仮処分制度の効用を著しく阻害するものといわねばならない。しかしながら、具体的になされた仮処分の内容が権利保全の範囲をこえて権利の終局的満足を得せしめるにひとしい場合もしくはその執行により債務者に対し回復すべからざる損害を与える場合には、同法五一二条、五〇〇条が設けられた法意にてらし、例外的にその執行の停止もしくは取消を許容すべきものである。

四、そこで本件仮処分決定もしくはその執行が右にいう例外にあたるかどうかについて考えるに、前記認定によれば、本件仮処分の内容は、相手方に対し本件係争地への立入その他抗告人の占有を妨害するような行為を禁ずるもの、つまり相手方に対し単純に不作為を命ずるに過ぎないもので、これによって抗告人の主張する権利の終局的な実現が得られるわけではないのであるから、右仮処分の内容自体を理由として本件取消の申立を認容するわけにはいかない。けれども、本件記録によると、相手方(資本金四、〇〇〇万円)は本件係争地の北側にある自己所有の仙台市荒巻字川平一三番八三六ほか二筆の山林約四万坪(一三一、四二九平方メートル)(以下造成予定地という。)を宅地として造成のうえ分譲すべく、昭和四六年四月二〇日頃には都市計画法三五条に基く開発許可が得られる見込で、四億八、〇〇〇万円にのぼる事業計画を樹て、既に銀行融資の手配、下請業者との工事契約の締結を終えており、もし本件判決があるまで右造成工事を施行できないときは回復すべからざる損害をこうむるものと予測されること、他方前記造成予定地の東側および北側は現況山林であり、西側は抗告人所有の道路に接しているため、相手方としては、いわゆる六号線(市道)から本件係争地を通らなければ右造成予定地に達することができない状況となっていること、そして前記許可は、本件仮処分決定が発せられたことによりしばらく保留されていたが、同年七月一二日仙台市長から相手方に対し許可証が交付されたことがうかがわれる。右によれば、相手方は本件仮処分の執行により回復すべからざる損害をこうむるわけであるが、右損害の発生を防止するためには相手方をして宅地造成工事施行のため前記造成予定地に出入することを可能ならしめれば足りるのであるから、その方法としては、本件仮処分の執行全部を取り消すまでの必要はなく、本件記録にあらわれた前記工事の性質、内容、造成予定面積、附近の道路の状況等を考慮するとき、右出入のため本件係争地中(イ)(ハ)線に平行に巾六米の部分(別紙図面表示の(イ)(イ)(ハ)(ハ)(イ)の各点を直線で結んだ範囲)を通路とすることを可能にすれば必要かつ充分と思料する。

五、してみると、本件執行取消の申立は、右通路部分に関する限り正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。よって本件抗告は一部理由があるので、原決定を主文第一項のように変更し、本件申立費用の負担につき民訴法九六条、九二条但書を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 羽染徳次 裁判官 田坂友男 佐々木泉)

〈以下省略〉

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